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ある登山愛好家の物語、ツボが支えた膝との共生
私の趣味は、週末ごとに、山へ出かけることでした。しかし、50歳を過ぎた頃から、下山時に決まって右膝が痛み出し、その痛みは年々ひどくなるばかり。整形外科では「変-形性膝関節症”の初期ですね」と診断され、湿布と痛み止めを渡されるだけ。もう、あの山頂からの景色を見ることはできないのかと、絶望的な気持ちでいました。転機が訪れたのは、山仲間から、鍼灸院を紹介されたことでした。鍼灸師の先生は、私の膝だけでなく、足首や股関節の硬さを指摘し、膝周りの「気血の滞り」を、鍼と灸で、丁寧にほぐしてくれました。そして、先生は、私に、一枚のツボの図を渡し、こう言いました。「治療は、私が手伝えるけれど、あなたの膝を、毎日守ってあげられるのは、あなた自身ですよ」。その日から、私の「自分で治す」挑戦が始まりました。先生に教わった通り、毎晩、お風呂上がりに、犢鼻(とくび)、血海(けっかい)、そして、足三里(あしさんり)のツボを、ゆっくりと、呼吸に合わせて押すことを日課にしました。最初は、ただ痛いだけだったツボが、続けるうちに、ズーンと響くような、心地よい感覚に変わっていくのが分かりました。それは、まるで、自分の体と、対話をしているような時間でした。さらに、私は、膝を支えるための、大腿四頭筋のトレーニングと、股関節のストレッチも、並行して始めました。そして、3ヶ月後。私は、恐る恐る、近所の低い山へと向かいました。登りの途中、少し膝に違和感を感じた時、私は、立ち止まり、教わった通りに、膝眼(しつがん)のツボを、ぐっと押し込みました。すると、不思議なことに、膝の周りが、じんわりと温かくなり、痛みが和らいでいくのです。下山時には、こまめに休憩を取り、その都度、委中(いちゅう)や陽陵泉(ようりょうせん)のツボを押しました。そして、無事に下山した時、いつもならパンパンに腫れているはずの膝の痛みが、明らかに軽いことに、私は気づきました。ツボ押しは、私の膝を、完全に治してくれたわけではありません。でも、それは、私に、自分の体の声を聞き、その不調に、自らの手で対処できるという、大きな「自信」と「お守り」を、与えてくれたのです。今、私は、膝痛と、そしてツボと共に、再び、山を歩いています。以前よりも、少しだけ賢く、そして、自分の体に感謝しながら。