在宅ワークが始まった当初、私は、解放感でいっぱいでした。しかし、その喜びは、長くは続きませんでした。ダイニングテーブルの硬い椅子で、一日中ノートパソコンに向かう生活が始まって数週間後、私の腰は、経験したことのない、重く、鈍い痛みに悲鳴を上げ始めたのです。朝、ベッドから起き上がるのが辛い。少し座っているだけで、腰が固まってしまう。マッサージに行っても、その場しのぎにしかならず、仕事の効率は、日に日に落ちていきました。そんな時、同僚から勧められたのが、一万円ほどする、人間工学に基づいて設計された、腰痛対策用のゲルクッションでした。「たかが座布団で、何が変わるんだ」。半信半疑ながらも、藁にもすがる思いで、私はそれを購入しました。届いたクッションを椅子に置き、恐る恐る座ってみた瞬間、私は、思わず「おっ」と声を漏らしました。平らだと思っていた椅子の座面が、まるで自分の体に合わせて作られたかのように、お尻を、そして骨盤を、優しく、しかし確実に、包み込み、支えてくれるのです。自然と、背筋がすっと伸びる。腰の、あの嫌な圧迫感が、明らかに和らいでいる。その日から、私の在宅ワークは、少しずつ変わり始めました。座布団が、正しい姿勢をガイドしてくれるおかげで、長時間座っていても、以前のような疲労感はありません。そして、何より大きな変化は、私自身の「意識」でした。座布団の快適さを知ったことで、私は、自分の体がいかに、劣悪な環境で酷使されていたかを、初めて自覚したのです。それをきっかけに、私は、30分ごとにタイマーをかけ、必ず立ち上がってストレッチをするようになりました。週末には、これまで避けていた、体幹を鍛えるトレーニングも始めました。数ヶ月後、私の生活から、あれほど日常的だった腰の痛みは、ほとんど姿を消していました。あの一枚の座布団は、単に私の姿勢を支えてくれただけではありません。それは、自分の体と向き合い、大切にすることの重要性を教えてくれた、私の健康への意識を変える、大きなきっかけだったのです。