腰痛予防の筋トレというと、多くの人が、腹筋や背筋ばかりに目を向けがちです。しかし、近年のスポーツ科学やリハビリテーションの世界では、「腰痛を制する者は、尻を制す」と言われるほど、お尻の筋肉、すなわち「殿筋群(でんきんぐん)」の重要性が、強く認識されています。なぜ、お尻の筋肉が、これほどまでに腰の健康に不可欠なのでしょうか。殿筋群は、主に、股関節を伸展させる(脚を後ろに蹴り出す)働きを持つ「大殿筋」と、股関節を外転させる(脚を横に開く)働きを持つ「中殿筋」から成り立っています。大殿筋は、上半身と下半身をつなぐ、人体で最も大きく、強力な筋肉であり、体をまっすぐに支えるための、強力なエンジンです。このエンジンが、長時間の座りっぱなしの生活などで、衰えて機能不全(グローバルアムネジア=殿筋健忘症)に陥ると、体は、その代償として、本来、姿勢を支えるのが得意ではない、腰の筋肉(脊柱起立筋)や、太ももの裏の筋肉(ハムストリングス)を、過剰に働かせて体を支えようとします。この「筋肉の代償パターン」こそが、慢性腰痛の、隠れた最大の原因なのです。また、中殿筋は、歩行時に、骨盤が左右にぐらつくのを防ぐ、極めて重要なスタビライザー(安定化装置)です。この筋肉が弱ると、歩くたびに骨盤が不安定になり、その揺れを、腰の筋肉が、必死に食い止めようとして、疲弊し、痛みを発します。これらの理由から、腰痛予防の筋トレは、腹筋や背筋と、同じくらい、いや、それ以上に、この眠ってしまった殿筋群を、再び目覚めさせるトレーニングに、重点を置くべきなのです。自宅でできる代表的な殿筋トレーニングが、「ヒップリフト(ブリッジ)」です。仰向けに寝て、膝を立て、お尻をきゅっと締めながら、ゆっくりと持ち上げます。この時、腰を反らせるのではなく、股関節を伸ばす意識で行うことが、殿筋を効果的に刺激するポイントです。
お尻を鍛えずして、腰痛予防は語れない!殿筋トレーニングの重要性