私たちの体には、筋肉一本一本を覆い、さらに、筋肉同士や内臓を繋ぎ合わせ、全身をウェットスーツのように立体的に包み込んでいる、「筋膜(きんまく)」という、薄いコラーゲン線維の膜組織が存在します。この筋膜は、近年、体の痛みや不調を理解する上で、非常に重要な役割を果たすことが分かってきました。筋膜は、決してバラバラに存在するのではなく、特定のラインに沿って、全身が繋がっています。その代表的なものが、体の後面を、足の裏から、ふくらはぎ、太ももの裏、お尻、背中、そして首の後ろを通り、頭頂部、眉の上までを、一本の長い線路のようにつなぐ「スーパーフィシャル・バックライン」です。この筋膜の繋がりをイメージすると、腰痛と頭痛が、なぜ同時に起こりやすいのかが、手に取るように理解できます。例えば、長時間のデスクワークや、中腰での作業によって、腰やお尻の筋肉が過度に緊張し、硬くなってしまったとします。すると、その部分の筋膜は、水分を失って滑りが悪くなり、まるでセーターの一部を引っ張ると、首元まで引きつれてしまうように、その緊張を、このバックラインに沿って、上方へと伝えていきます。腰の緊張は、背中の筋肉(広背筋や脊柱起立筋)を硬くし、さらに、肩甲骨周りの動きを悪くします。そして、その緊張の波は、最終的に、首の後ろ側の筋肉(僧帽筋や後頭下筋群)に到達し、頭蓋骨の付け根をガチガチに固めてしまうのです。この頭蓋骨の付け根には、頭部へと向かう重要な神経や血管が集中しています。筋膜の緊張によって、これらの神経が圧迫されたり、血流が悪化したりすることが、緊張型頭痛や、時には後頭神経痛といった、後頭部の鋭い痛みの直接的な原因となります。つまり、あなたが頭に感じている痛みは、実は、そのはるか下の、腰やお尻の筋膜の「しわ寄せ」が、最終的に現れた結果かもしれないのです。