腰痛には、魔女の一撃とも呼ばれる、突然の激痛に襲われる「ぎっくり腰(急性腰痛症)」と、常に腰が重い、鈍い痛みが続く「慢性腰痛」があります。この二つは、痛みの強さや期間が違うだけでなく、その背景にある「筋肉の状態」も、大きく異なっています。まず、「ぎっくり腰」は、筋肉や、その周りの筋膜、あるいは関節を支える靭帯といった、軟部組織の「急性的な損傷(ケガ)」です。重い物を持ち上げたり、急に体をひねったりした瞬間に、筋肉の線維が、部分的に断裂したり、引き伸ばされたりして、強い炎症が起こります。これは、足首の捻挫と同じような状態が、腰で起こっていると考えると分かりやすいでしょう。炎症のサインである「熱感」「腫れ」「発赤」「激痛」が特徴で、体を動かすことが困難になります。この急性期には、無理に動かしたり、温めたりすると、炎症を助長してしまうため、安静にし、患部を冷やす(アイシング)ことが、最も重要な初期対応となります。一方、「慢性腰痛」は、このような明確なケガではなく、長期間にわたる、筋肉の「機能不全」が原因です。悪い姿勢や、繰り返しの負担によって、特定の筋肉が、常に緊張し、硬直した状態が続きます。これにより、筋肉内の血流が悪化し、酸素や栄養が不足する「虚血状態」に陥ります。筋肉は、この虚血状態が続くと、ブラジキニンなどの「痛み物質」を産生し始めます。この痛み物質が、神経を刺激することで、常に重く、鈍い痛みを感じるようになるのです。また、痛みをかばうために、さらに体の歪みが助長され、他の筋肉まで硬くなるという、悪循環に陥ります。慢性腰痛の筋肉は、「炎症」というよりは、「血行不良による酸欠状態」にあります。そのため、治療のアプローチも、急性期とは全く逆で、ストレッチや、入浴などで、積極的に体を温め、血行を促進してあげることが、痛みの緩和に繋がるのです。