「座りすぎ(セデンタリー・ビヘイビア)」がもたらす健康への悪影響は、もはや、腰痛や肩こりといった、筋骨格系の問題だけにとどまりません。近年の世界中の研究から、座りすぎは、肥満、2型糖尿病、心血管疾患、さらには一部のがんのリスクまでも著しく高める、極めて深刻な健康リスクであることが、次々と明らかになっています。その影響の大きさから、一部の専門家は、「座りすぎは、新しい時代の喫煙である(Sitting is the new smoking.)」とまで警鐘を鳴らしています。なぜ、座っているだけで、これほどまでに全身の健康が蝕まれるのでしょうか。その根源的なメカニズムは、全身の「代謝機能」の低下にあります。私たちの体の中で、最も大きく、エネルギー消費の多い筋肉は、下半身、特に太ももの筋肉です。しかし、座っている間、これらの巨大な筋肉は、ほとんど活動を停止してしまいます。筋肉の活動が低下すると、血液中の糖や脂肪を取り込む働きが鈍くなり、血糖値や中性脂肪の値が上昇しやすくなります。これが、糖尿病や脂質異常症の直接的な引き金となるのです。また、長時間座り続けると、足の血流が滞り、血管の内側に血栓(血の塊)ができやすくなります。この血栓が、肺や心臓、脳へと飛んで、エコノミークラス症候群(肺塞栓症)や、心筋梗塞、脳梗塞といった、命に関わる病気を引き起こす危険性もあります。そして、衝撃的なことに、これらの健康リスクは、たとえ「普段から定期的に運動をしている人」であっても、日中の座っている時間が長ければ、完全には帳消しにできない、という研究結果も報告されています。つまり、週に数回ジムに通って運動しているからといって、平日に8時間以上座りっぱなしの生活を送っていれば、そのリスクから逃れることはできないのです。座りすぎという、静かなる脅威から身を守る唯一の方法。それは、30分に一度立ち上がるといった、日中の座りっぱなしの時間を、意識的に、そして頻繁に中断することなのです。