趣味の登山が、私の生きがいでした。しかし、50歳を過ぎた頃から、下山時に決まって右膝が腫れ、水がたまるようになりました。整形外科に行くと、「変形性膝関節症ですね」と診断され、水を抜いて、ヒアルロン酸を注射する。その繰り返し。痛みは一時的に楽になりますが、次の山行で、また同じことの繰り返し。いつしか、私は、大好きだった山から、足が遠のいていました。「もう、あの頂からの景色を見ることはできないのか」。そんな諦めの気持ちが、心を支配していました。転機が訪れたのは、スポーツリハビリに詳しい、理学療法士の先生との出会いでした。先生は、私の膝を診るなり、こう言いました。「あなたの痛みの原因は、膝そのものではなく、お尻の筋肉が、全く使えていないことですよ」。衝撃でした。先生の指導のもと、私が始めたのは、地味で、退屈なトレーニングの連続でした。お尻の筋肉(中殿筋)を鍛えるための、横向きでの足上げ運動。体幹を安定させるための、プランク。そして、硬くなった股関節をほぐすための、入念なストレッチ。正直、最初は「こんなことで、本当に治るのか?」と半信半疑でした。しかし、3ヶ月ほど経った頃、私は、日常生活の中で、明らかな変化を感じ始めました。階段の上り下りが、以前より楽になっている。歩いている時の、膝のぐらつきが、少なくなっている。そして何より、膝周りに、まるで一本の芯が通ったような、安定感が生まれていたのです。私は、勇気を出して、近所の低い山へ、リハビリ登山に出かけました。下り坂、教わった通りに、歩幅を小さく、お尻の筋肉でブレーキをかけるように、一歩、また一歩。そして、無事に下山した時、私は気づきました。いつもならパンパンに腫れているはずの膝が、ほとんど腫れていないことに。膝に水がたまっていたのは、私の膝が、弱った筋肉の代わりに、悲鳴を上げていただけだったのだ。水を抜くことは、その場しのぎの対症療法に過ぎず、本当の治療は、自分の体と向き合い、その弱点を、自らの力で克服することなのだと、私は、心から理解しました。今、私は再び、あの頂を目指しています。以前よりも、膝に感謝しながら。