「腰痛予防には腹筋運動だ!」と信じて、学生時代にやったような、上体起こし(シットアップ)を、一生懸命に繰り返してはいないでしょうか。もしそうなら、その努力は、残念ながら、腰痛予防にはあまり効果がないばかりか、かえって腰を痛めてしまう危険性すらあります。腰痛予防のために、本当に鍛えるべきなのは、シックスパックに割れるような、表面的な腹直筋(アウターマッスル)ではありません。その本当の主役は、体の奥深くにあって、背骨を直接支えている「インナーマッスル」、特に、体幹の深層部を構成する「コアユニット」なのです。このコアユニットは、お腹を、天然のコルセットのように、360度から包み込む「腹横筋」、背骨の一つひとつに付着して、安定させる「多裂筋」、骨盤の底で、ハンモックのように内臓を支える「骨盤底筋群」、そして、呼吸を司るドーム状の筋肉「横隔膜」の、四つの筋肉から成り立っています。これらのインナーマッスルが、呼吸と連動して、協調して働くことで、お腹の内部の圧力(腹腔内圧)が高まります。すると、背骨は、内側から、まるで空気でパンパンに膨らんだ支柱のように、強力に支持され、安定します。このメカニズムこそが、腰椎への負担を劇的に軽減してくれる「天然のコルセット」の正体です。しかし、上体起こしのような、勢いをつけた腹筋運動では、この繊細なインナーマッスルを鍛えることはできず、主にアウターマッスルである腹直筋や、腰に負担をかける腸腰筋ばかりが使われてしまいます。腰痛予防の筋トレの第一歩は、この眠ってしまったインナーマッスルを、再び目覚めさせ、その使い方を、脳と体に思い出させてあげることから始まるのです。